STAR OCEAN side story

37億ネーデ年前 慢心した十賢者達は、その圧倒的な力を以て、惑星ネーデの制圧に乗り出した。対するネーデは、これに対抗すべく、旧ラクアに集結。緊急軍事会議を開き、十賢者の侵攻に備えた。しかし、強大な戦闘能力と、洗練された指揮系統を誇る十賢者の前に、即席のネーデ防衛軍は各地で敗退。ネーデの都市という都市が陥落する様を止めるだけの力は無いかに思われた。

だがネーデも只、指をくわえてみていただけではなかった。旧ギヴァウェイにて秘蔵に製作された対十賢者用人造兵器、通称”神の騎士団”の、戦線投入にネーデ上層部が許可を下した。
 

 その日、旧ファンシティにて取り行われた対十賢者用人造兵器の一体である試作品”ランスロット”の試験的戦闘で悲劇は起きた....

「俺を捕らえたくらいでテングになってもらっちゃあ困るぜ、十賢者には俺なんか比べものになんねぇほどの奴らがゴロゴロいるんだ、ざまあみろ!ヒャハハハ!」
ザフィケルが汚い声で笑う。
「静かにしろ!今の貴様は、目の前の敵と戦っていればいい、自分の置かれた状況をよく考えろ!」
「チッ」
監査官が怒鳴ると、彼もさすがに自分の立場を理解したのか、静まった。

「とっとと前に出ろ!」監査官に押されてザフィケルが姿を現したが、その顔はひきつり、額にはマンガのように血管が浮き上がっている。愚鈍なネーデの捕虜になった事もさることながら、十賢者の一人である自分を見ても顔色一つ変えない目の前の青年が、彼にはとても気に入らないのだろう。

「見ていやがれッ! そこのニーチャンを八つ裂きにしたら次はテメェらの番だッ!」

監視塔を見上げながら大騒ぎしているザフィケルを尻目に、オペレータらしき男がつぶやく。「これより、反乱沈静用素体RA-100Lランスロットの第一回試演的模擬戦闘を開始する・・。」

同時に警報音がこのドームの様な空間にこだまする、戦闘開始の合図だろう。

「ヒャッハーッ! 死ねィッ!」先にしかけたのはもちろんザフィケルだ。素早く間合いを詰めランスロットに殴りかかる。一瞬よろめいたランスロットだが、拳をふりあげ2撃目を放とうとするザフィケルを正確に見据え、左腕のエネルギーカッターで斬りつけ、不意の反撃に体勢を崩したザフィケルのみぞおちを蹴り上げると、さらに間髪いれず、彼の長い髪をつかみ、半円を描いて地面に叩きつけた。

「どうした、かかってこないのか?」フラフラと立ち上がったザフィケルを猛烈なラッシュが襲う。さらにとどめとばかりに巨大な光弾がザフィケルに直撃し、彼は再び地に伏した。

「本気を出したらどうだ? まさか、これが全力というわけでもあるまい?」ランスロットは、馬鹿にするように聞き覚えのあるセリフを吐いた。

「テんメェ・・ もう許さねぇ・・・ 殺す!」ザフィケルはさっきと違い、ハンドスプリングで勢いよく立ち上がるとランスロットをにらみつけた。 目が本気だ。
「全力というわけではあるまい・・ か、いいカンをしている・・・」そういいながらザフィケルは右腕を天にかかげた。

 すると不思議なことに、巨大な剣が姿を現した。 別に驚きもしないランスロットに少しがっかりしたザフィケルだったが、気を取り直して彼は叫んだ。「本番・・・ 開始だッ!」
またしても先にしかけたザフィケル。しかし、そのスピードは素手のときの比ではない。ランスロットが身構える間もなく、巨大な切っ先がランスロットの頬をかすめ、反撃の間も与えずに強烈なヒジ鉄が彼の顔面をとらえた。
「勝機!」すかさずザフィケルは巨大な剣でランスロットの両脚をすくう。さらに、転倒したランスロットの右腕を地面もろとも刺貫くと、鈍い音が監視塔の最上階まで響く程のケリを、ランスロットの脇腹にそれこそマシンガンのように叩き込んだ。

「くたばれやぁーッ!」踏んだり蹴ったりという言葉を物理的に解釈すると、このような光景になるのだろう。ザフィケルが日頃のウップン、とはいっても常に好き勝手をやっている十賢者にウップンなど存在するかは疑問だが、とにかく、それら何かのたまりつまったようなものを全て、ダウンした反撃不能の青年に向けて発散しているということは前述したような血管や、血走った眼球から容易に想像できた。

「やはり、人造兵器などでは話にならんか・・・。」必要以上に人口密度の高いモニター室から口々に落胆の声がもれる。本来、自分達の昇身にも昇給にも影響しない実験の結果などはどうでもいい彼らがこうも真剣なのは、一度戦闘モードに入った十賢者を再び捕獲できる設備など、今のネーデには存在せず、その十賢者がランスロットの次に狙うのは、一番近場にいる自分達であるということを知っているからに他ならない。

「ヒャハハハーッ!泣け!わめけ!俺に命乞をいしなァー!」常人ならとっくに昇天しているほどのケリを放ったはずのザフィケルが勝利を確信したその時、

「今すぐそこをどけ、五体満足で死にたいのならな。」

突然、ランスロットが口を開き、光の筋が空中を走ると、次の瞬間、ザフィケルの胸部から鮮血が吹き出した。
「テ、テメェ やりやがったなっ!」何が起こったのか理解できないザフィケルが必死に叫ぶ。
「そいつはこっちの台詞だな…お陰で意識不明の重体だ。」意識不明の人間が何故しゃべれるのかということもそうだが、あれだけの攻撃を受けて尚も立ち上がることができると言うことが、ザフィケルには不思議で仕方がなかった。もっとも、ザフィケルでなくともリンチに近いケリをくらったランスロットが再び立ち上がることなど、モニター室の連中はおろか誰も予想しなかったことだが。
「しゃらくせいッ!もう一度おねんねしやがれィッ!」今は折れて地面に転がっている剣を拾い、立ち上がった青年めがけて突撃するザフィケル。だが、多分にランスロットと思われるその青年は軽やかに空へと舞い上がり、両腕を交差させた。同時にザフィケルの周りを包む空気が悲鳴を上げながら青年の両手に集束する。途端に辺りは暗くよどみ、青白い光線が網目のように交わりながら青年を囲む。

「滅びの風をその身に受けるがいいッ!」

青年は交差した両腕を放物線を描くように広げた。ザフィケルが事態を把握するまもなく、蛍光グリーンに光るエネルギーの束が、解き放たれた空気の渦に飲み込まれていく。凄まじい勢いで回転する気流の塊がザフィケルに直撃し、うねり狂う竜巻に姿を変えると、砂塵を巻き上げながら地上の物体を容赦なくなぎ払った。監視塔?モニター室?地面を根こそぎひっぺがす程の猛烈な風を受けながら、尚も雄々しくそびえ立っているような監視塔がどこの世界にあるというのだろう?最後に巨大な竜巻は、つい一分前まで元気にはしりまわっていた肉の塊を空中に放り上げると、何事もなかったかのように静まった。後に残ったのは、原型の想像を許さない瓦礫の山と、人の形をしたダマスクスだけである。
「ハーッハッハッハッ!」青年は高笑いすると何処かへ飛び去っていった。この青年がどこへ行こうがネーデには手にとるようにわかるだろう。奇跡的にもモニター室とその中身が無事であればの話だが。

成功か、失敗か、ネーデの行った実験は、そのどちらでもない方向へと展開していくことになった。
かくして、この事件の目撃者は、彼方へ飛び去っていったランスロット本人と、始終この様子をうかがっていた、空中に浮かぶ不思議な目玉だけと言うことになり、セントラルシティ新聞社のおっちょこちょいな女性記者がこの廃墟を発見し、全ネーデを震撼させる大ニュースになるのは、一ヶ月も後のことであった。

 

         to be continue....